【報告】BRIJC 第一次訪中報告 2018.9.7〜15

投稿者: | 2018年10月26日

一帯一路日本研究センター(BRIJC)は2018年9月7日から15日までの間、進藤榮一代表(筑波大学名誉教授)を団長にセンター設立後初の中国訪問を実施しました。8泊9日の間、中国東北地方の拠点都市である瀋陽、大連、庄河各市、そして北京を訪問し、計11の研究・交流機関、大学との間でシンポジウムや討論会、表敬訪問を行いました。
このうち、以下の4つの教育・研究機関との間で研究協力を進める覚書に調印し、日中研究交流のネットワークを強化しました。
*大連外国語大学
*中国城市科学研究会智慧城市(スマートシティ)連合実験室
*一帯一路国際智庫合作連盟(一帯一路国際シンクタンク協力連盟)
*丝绸之路城市連盟(シルクロード都市連盟、SRCA)
センターからは進藤代表、周瑋生事務局長・立命館大学教授、徐一睿事務局次長・専修大学准教授を事務局に、原田博夫・専修大学教授、朱炎・拓殖大学教授、唱新・福井県立大学教授、後藤康浩・亜細亜大学教授、李瑞雪・法政大学教授、伊集院敦・日本経済研究センター首席研究員、渋谷祐・中国研究所21世紀シルクロード研究会世話人代表、竹内幸史・国際開発ジャーナル編集委員(順不同)が参加しました。
また、通訳やオブザーバーとして林敏潔・南京師範大学教授、立命館大学院生3名が参加しました。このほか、訪日準備や滞在・移動に中日両国の多くの方々に多大なご支援をいただきましたことに深く感謝申し上げます。
主な日程と交流のパートナーは、以下の通り。

【主な日程】
◉9月7日(金)瀋陽市内
・ 北京経由で午後、遼寧省の省都、瀋陽市に到着。
・ 遼寧社会科学院で討論会を開催。牟岱副院長、張天維・産業経済研究所所長、趙玉紅・経済研究所副所長らが出席。

◉9月8日(土)瀋陽市内
・ 遼寧大学日本研究所主催シンポジウム「“一帯一路の中日交流と協力”国際学術研究会〜中日平和友好条約締結40周年記念」を開催。
・ 崔岩教授、李彦学副所長、李承志・遼寧省人民対外友好協会副秘書長らが出席。進藤代表が基調講演。
・ 杉田雅彦・駐瀋陽日本国首席領事、姜龍範・天津外国語大学渉外法政学院院長、沈海涛・吉林大学日本研究所教授らが参加。

◉9月9日(日)瀋陽市内
・ 遼寧大学日本研究所で国際会議、日本側代表団全員が参加報告。午後進藤が基調講義。

◉9月10日(月)大連市内
・ 午前、高速鉄道「和諧号」で大連市に移動。
・ 午後、大連外国語大学で、当センターと大連市発展改革委員会、同大学共催のシンポジウム「“一帯一路”都市と地域の協力〜中日研究会」を開催。趙永勃・大連市発展改革委員会主任、劉宏校長、常俊躍・副校長、干飛・日本語学院院長、劉立・一帯一路城市区域発展研究院院長らが出席。
・ 日本側団員7名(進藤、周、原田、唱、朱、後藤、竹内)に大連外国語客員教授号授与式典。
・ 劉立院長と進藤代表が研究協力覚書に調印。

◉9月11日(火)庄河市内
・ 午前、庄河市に移動。中日韓循環経済モデル基地である都市、庄河の主要施設を訪問。
・ 庄河港、循環経済モデル都市展示資料館、洋上風力、船舶用プロペラ工場、自動車解体・リサイクル工場などを視察。
・ 庄河市人民政府を訪問。于成福・常務副市長、孔祥東・大連北黄海経済区管理委員会副主任らと討論会を開催。

◉9月12日(水) 北京市内
・ 午前、庄河市を高速鉄道で出発。大連経由で午後、北京到着。
・ 建設部に元建設部副部長(副大臣)の仇保興・国務院参事、中国城市科学研究会理事長を表敬訪問と意見交換。
・ 中国城市科学研究会智慧城市(スマートシティ)連合実験室で、討論会を開催。万碧玉・統括者兼首席科学家が司会、中国(海南)改革発展研究院副院長らが参加。
・ 万氏と進藤代表が研究協力の覚書に調印。

◉9月13日(木) 北京市内
・ 一帯一路国際智庫合作連盟との討論会を開催。現代世界研究センター副主任で同連盟理事会副秘書長の王立勇氏が司会、李鼎鑫・現代世界研究センター戦略研究所所長、林永亮・現代世界研究センター形勢分析所副所長、楊伯江・中国社会科学院日本研究所副所長らが出席。
・ 王氏と進藤代表が研究協力の覚書に調印。
・ 北京市華僑連合会を表敬訪問。蘇泳・副主席、曹江河・海外連誼部部長らが出席。
・ 孔子学院の本部を表敬訪問。趙国成・副総幹事らが出席。
・ 在中国日本国大使館に横井裕特命全権大使を表敬訪問、意見交換。
・ 丝绸之路城市連盟(シルクロード都市連盟、SRCA)と交流会を開催。張燕玲院長、劉志勤・執行院長、巫碧秀・秘書長、薛剣・中国外交部参事官らが出席。CCTV等中国側テレビによるインタヴュー(進藤、竹内が対応)全国放映。
・ 劉執行院長と進藤代表が研究協力の覚書に調印。

◉9月14日(金)北京市内
・ 中国全球化智库(中国グローバリゼーションセンター、CCG)で討論会を開催。王輝耀理事長、秦剛・執行院長、苗緑・副主任兼秘書長らが出席。平澤順・丸紅(株)執行役員・中国総代表、蘇浩・外交学院戦略和平研究センター主任らが参加。
・ 一帯一路百人論壇との討論会を開催。一帯一路百人論壇の召集人で中央党校国際戦略研究院の趙磊教授、朱強・一帯一路百人論壇副秘書長、方晋・中国発展研究基金会副秘書長、雷電・中船重工運舟(北京)科技有限公司副総経理らが出席。

◉9月15日(土)帰国

 

****** 交流を振り返って ******

朝鮮半島の緊張緩和も反映
訪中前半は、中国東北地方の瀋陽、大連の二大都市に加え、遼寧半島の環境モデル都市である庄河を訪問した。
遼寧省最大の総合大学で、3万人近い学生が学ぶ国家重点大学である遼寧大学では9月8日、「“一帯一路の中日交流と協力”国際学術研究会〜中日平和友好条約締結40周年記念」というシンポジウムが開催された。遼寧大学日本研究所の主催、全国日本経済学会の共催で、2004年に新設された緑あふれる広大なキャンパスが会場だった。東北地方は歴史的に日本研究者が多く、主催した遼寧大学日本研究所は、1964年に周恩来首相の音頭で独立機関として開設された日本研究所が前身である。
開会にあたり、一帯一路日本研究センターの進藤代表は、「巨大なパワーシフトがグローバルに展開している。それは、パックスアメリカーナの終焉であり、『アジア力』の世紀到来であり、軍事力が機能せず、経済社会がパワーを持つといった転換である。日本には一帯一路は夢のまた夢だ、幻想だという説明がされたり、あれは『竜の爪』だ、拡張主義であるという見方が出たりしているが、一帯一路はインフラ建設でネットワークを築こうというものだ」と挨拶した。
李承志・遼寧省対外友好協会副秘書長が「一帯一路建設における中日協力のチャンス及び対日協力における遼寧省の優位性」と題する基調報告で、一帯一路の意義をこう述べた。
「中国は国際システムの参加者から公共財の提供者に変貌した。世界の発展に新たな貢献ができる。世界の多極化、各国との互恵とWIN-WIN関係を尊重しながら、各国人民に賛同される国際システムを形成していく。世界を均等で包括的な持続発展可能な方向に導き、平和と繁栄、文明の道を築いて行きたい」
東北地方は中国の中では他地域と比べ、経済発展が遅れている地域だが、朝鮮半島の緊張緩和ムードがシンポジウム開催にも「追い風」となった。瀋陽から北朝鮮国境の鴨緑江にある丹東までの距離は約250km。瀋陽や大連など遼寧省の都市には、北朝鮮との貿易業者や出稼ぎ労働者も多く、北朝鮮とは密接な関係にあるだけに情勢改善に期待は大きい。最近訪朝した北朝鮮情勢に詳しい中国人学者によると、いずれ予想される経済制裁をにらみ、中国人ビジネスマンの訪朝が急増しているという。とりわけ金正恩政権が「並進路線」から経済重視に転じた今年4月から平壌のホテルが満員になっているという。
遼寧大学日本研究所の崔岩教授は、「朝鮮半島の緊張緩和は良い傾向であり、北東アジア協力に好影響がある。北朝鮮は北東アジア各国との関係改善と経済協力を求めており、韓国も北朝鮮の鉄道改善に協力する考えだ」と指摘した。
さらに崔教授は、「一帯一路では日本と韓国を重点対象にしていなかったが、どの国にもオープンであり、『第三国協力』を進めることが重要だ」と述べ、日中韓が北朝鮮への経済協力に連携することも今後の課題として示唆した。また、崔教授は、北東アジア諸国が協力して取り組むべき事例として、1990年代から国連開発計画(UNDP)が主導して提案しながら足踏みしている「豆満江開発計画」の推進と、日中韓の自由貿易協定(FTA)の実現をあげた。崔教授の言う通り、中国政府は北朝鮮を刺激しないように配慮してか、一帯一路のウィングを朝鮮半島に拡大する構想を強く打ち出していないが、視野に入れているのは当然のことだろう。

若手研究者からも多彩な報告
9月10日には、大連外国語大学で「“一帯一路”都市と地域の協力 中日研究会」と題したシンポジウムが開催された。遼寧大学と大連外大の2つのシンポジウムに共通するのは、一帯一路をめぐる知的研究の裾野が大きく拡大していることである。単に習近平政権が進めるトップダウンの政策にとどまらず、21世紀にわたる中国の経済社会建設を洗い直し、グローバルな基盤を再構築しようという研究者たちの強い意欲を感じさせた。年配の学者から若手研究者に至るまで、世代を超えた識者が関心を示していたことが印象的だった。
その研究分野を整理すると、以下の3つがある。
第一に、一帯一路を機に、中央—地方—グローバルな舞台にまたがる有機的な経済発展の構図を捉え直す「グローカル」とも言える研究だ。この傾向は瀋陽の遼寧大学より、海に面した地の利を反映した大連の学者の問題意識にうかがえた。一例は、大連外大商学部の劉立教授(“一帯一路”都市・地域発展研究院院長)が発表した「遼寧“一帯一路”試験区建設と中日協力の新たな可能性」である。劉教授は、一帯一路を遼寧省と東北地方の地域経済を浮上させるチャンスと考え、大連港を日本などとの自由貿易の拠点港として再整備する構想を提示していた。
また、大連外大商学院の謝風媛氏は「一帯一路構想に応じた大連産業発展戦略」と題した研究発表で、モンゴルや中央アジア、さらには北極シルクロードをもにらんだ拠点港として発展させるため、大連の産業を高度化する開発構想を示した。謝氏は「大連は中央アジアにもアクセス可能な地の利があり、中国三大都市の一つだという『ブランド力』はあるのに、生かせていない。一帯一路を機に物流と観光などサービス産業を発展させる必要がある」と指摘した。大連海事大学の許萌萌氏も「一帯一路構想に応じた遼寧省沿岸経済ベルトの対外開放研究」について発表した。
第二は、環境分野である。日中間では第三国における経済協力分野として①環境、②インフラ、③物流が候補として上がっているが、環境分野の調査研究の取り組みが日中双方で進んでいる。大連外大商学部講師で、若手の環境ビジネス研究者である耿興龍氏は「一帯一路における日中環境経営協力」と題し、詳細な研究報告をした。耿氏は日本企業の1970年代からの環境経営の歩みを4段階に分けて分析した上で、現在の状況を「持続的開発目標(SDGs)」という新たな市場機会と、「ESG(環境・社会・ガバナンス)投資」という投資家の新たな価値基準の台頭という両面で捉えていく時代に移行したことを指摘した。こうした視点から、日中間の新たな協力の課題が環境分野にあることを示した。
環境分野の先駆的な研究としては、一帯一路日本研究センター事務局長である周位生・立命館大学教授の取り組みがある。周教授は「一帯一路の持続可能な発展とエネルギー環境共同体」と題した発表で、北東アジアのエネルギー環境協力や東アジア低炭素共同体の構築といった未来志向の提案を行った。また、2015年の日中韓サミットの共同宣言を受け、大連近郊の庄河市で進む「日中韓循環経済モデル都市建設事業」の事例を紹介した。また、周教授は、一帯一路事業の一環として、開発途上国の人材育成のために「南南大学」を中国内に設立する構想の提案をした。
第三の分野は、一帯一路に伴う自由貿易圏の拡大など、グローバルな自由貿易を維持発展するための研究である。日本では十分認識されていないが、中国政府は一帯一路の沿線国に自由貿易圏を広げていく構想を着々と進めており、日本企業が参入の関心を抱いている。この動きは、米国との貿易摩擦が深刻化する中で加速しており、中国はすでに一帯一路沿線の〓カ国と自由貿易協定を締結している。研究者たちはトランプ政権の動きを「反全球化(反グローバリゼーション)」と呼び、日本に自由貿易維持の協力を呼びかけた。
遼寧大学のシンポジウムでは、復旦大学日本研究センターの王廣涛・青年副研究員が「TPPと一帯一路の遭遇:日本の認識と対応」と題した発表で、日本などが加盟するTPPが一帯一路と相互にどう影響するか、分析を報告した。また、遼寧大学日本研究所の劉兵氏は「一帯一路構想における中国のサービス貿易の現状」について発表した。
また、北京の中共中央対外連絡部で開催された一帯一路国際智庫(シンクタンク)合作連盟との討論会では、中国社会科学院の楊伯江・日本研究所副所長が日本のTPPや欧州との自由貿易、RCEPの取り組みに関心が示された。楊副所長は、一帯一路が「政策溝通(政策連携)、設施聯通(インフラ整備)、貿易暢通(貿易・投資交流)、資金融通(資金調達・融資の連携)、民心相通 (材・文化交流の強化)」という「五通」の政策を反映したもので、「単なるEPAやFTAに見られない革新的な中身が内包されている」と指摘した。

今後の日中協力の課題
一帯一路構想は、中国が世界第二の経済大国に台頭し、国力が急拡大する過程で浮上してきただけに、日本を含めた国際社会には様々な見方がある。中国脅威論や中国依存が強まることへの警戒心などだ。最近では、2018年5月に行われたマレーシア総選挙で勝利して政権に復帰したマハティール首相が、中国主導の鉄道事業をキャンセルを表明した事例もあった。
中国に対するこうした傾向については、今回のシンポジウムや討論会で筆者(竹内)が何度か言及した上で、今後は第三国市場で日本が中国と協力することによって中国脅威論を和らげる可能性もあることを指摘した。日本経済に詳しい朱炎・拓殖大学教授も「日本企業の多くは一帯一路について情報収集の段階にとどまっている。港湾を開発しても中国に軍事利用されては困るという思いや、日本企業の参画を中国側が受け入れてぅれるのか、との思いがある」と指摘していた。
こうした点についてはオープンな形で日中間の論点になることは少なかったが、中国側も意識はしているようだった。遼寧大学のシンポジウムでは、李承志・遼寧省人民対外友好協会副秘書長も基調報告の中で、こう述べた。
「一帯一路は当初から平静だったとは言えない。ギスギスした声は耳に入る。例えば、中国脅威論だとか、中国の融資がもたらした債務負担だとか、米国に挑戦して国際バランスが取れなくなるなどの見方がある。確かに一帯一路は建設の初期段階にあり、一部の国には新しい事だ。意図の誤解が解消されず、判断を保留している国もある。ある程度心配があるかもしれないが、実り豊かな成果をもって疑念を払拭させることだ」
他の識者は、中国脅威論そのものを否定する意見が多かった。大連外大商学院の張小峰副教授は大連外大のシンポジウムで行った「中国・アフリカ経済協力の視点から見る中日アフリカ協力のポテンシャル」と題する発表の中で、「アフリカに中国脅威論はない」と言い切った。
北京の中共中央対外連絡部で開催された一帯一路国際智庫(シンクタンク)合作連盟との討論会では、安全保障の専門家からも意見が出た。中国人民大学国際関係学院の左希迎副教授は「一帯一路は中国の一つの戦略だが、開放的かつ非排他的なものである。日本や西側はが閉鎖的なものと考えているが、誤解がある。また、中国が一帯一路周辺国に地政学的な企図があると思われるが、軍事的に利用することは不可能だ。政治的に不安定な国々で地政学的な利益を求めることは、中国の利益にもならない。第三国協力に日本の参加を得て、補完的な効果を上げていくべきだ」と述べた。
ただ、中国が国内で提唱している「和諧社会」や「小康社会」が一帯一路の沿線国でどのように実現されるのか、経済社会にどんな新たな秩序がもたらされていくのか、まだ明確な姿は見えてこなかった。専修大学の原田博夫教授は「一帯一路のインフラ投資によって、経済が活性化されることを理解できるが、ソーシャル・ウェル・ビーイングの実現にもっと焦点を当ててみてはどうか。経済やビジネスの話ばかりでなく、『一帯一路版OECD(経済協力推進機構)』のような組織を創り、より幅の広い視点で取り組むべきではないか」と提案した。
これに対しては、一帯一路百人論壇の召集人である趙磊教授からは「OECDとは名前が良くない」と即座に異論が出た。西側の「先進国クラブ」であるOECDでは開発委員会(DAC)と中国の間で経済協力のあり方をめぐる対話が進んでいるものの、「中国包囲網」の色彩が強く、スムーズな対話が進んでいるとは言えない事情も反映しているようだ。
だが、日本側の提案には、東南アジア諸国連合(ASEAN)に設立した「東アジア・ASEAN研究センター(ERIA)」のように、東アジア経済統合の推進を目的として、政策研究・提言を行う多国間機関が念頭にある。中国主導色の強い一帯一路の事業を客観的な尺度で検証し、公益性を高めていくような多国間のメカニズムが何らかの形で必要な時期に来ている、との問題意識がある。今後の日中対話の課題だと言えよう。

今回の訪問を通じて、中国が提唱する「一帯一路」構想に関する相互理解と交流を深め、一定の政策提言を行うことができました。訪中にあたり、多大なご支援とご協力をいただいた皆様に重ねて感謝申し上げます。
(文責=竹内幸史・一帯一路日本研究センター国際広報委員)