報告:一帯一路日本研究センター設立記念シンポジウム 2018.4.18

投稿者: | 2018年5月1日

一帯一路日本研究センター設立記念シンポジウムを開催「日中韓サミットから一帯一路構想へ」

一帯一路日本研究センターは2018年4月18日、東京・内幸町の日本プレスセンターで「日中韓サミットから一帯一路構想へ」をテーマに同センター設立記念シンポジウムを開催した。

2017年11月30日に発足した同センターの研究機関としての設立意義を示す初の公開イベントに100人以上の参加者が詰めかけた。

「一帯一路に参加することは日本の安全保障にもプラスになる」と進藤氏

第一部は、センター副代表で立教大学総長の郭洋春氏の司会で、設立報告と記念挨拶があった。冒頭、郭氏は「まさに激動するアジアの政治経済情勢の中で、一帯一路日本研究センターの設立により、この地域の平和と発展に寄与し、このシンポジウムを開催できるのは光栄だ」と述べた。

そして、センター代表で筑波大学名誉教授の進藤榮一氏が登壇し、設立の経緯や目的について次のように報告した。

「昨年の日中国交正常化45周年の折に多くの方の意見を受け、センター設立を決意した。リスクか、チャンスか? プロセスか、構造か? 私たちは今この2つの選択肢を問われている。そのポジションは、中国をどう見るか、アジアをどう見るかと裏腹の関係にある。勃興するアジアをリスクと捉えたがる人もいるが、私たちはリスクより、チャンスを重視したい。巨大なチャンスが訪れつつある。単なる一過性のプロセスではなく、構造変化の只中にいると捉えている」

「一帯一路構想は、ある中国研究者が言うような単なる『天空の星座』などとは思わない。習近平主席の『竜の爪』とは思わないし、軍事的脅威論の中でとらえない。『パックス・アメリカーナ』の時代が終わり、巨大な『アジア力の世紀』が到来している。日本の再生にとって、構造変化のうねりの中で、日本がその波をつかまえていくことが、日本の再興にとって重要で不可欠だと見ている」

「一帯一路については、マーシャルプランと比較したがる声もあるが、規模が違う。欧州復興の歴史を作ったマーシャルプランは邦貨で2兆円〜3兆円規模だったが、ユーラシア大の一帯一路構想はすでに20兆円〜30兆円という規模になっている。沿線国だけでも60を超え、国際機関も入れると100を超える。しかも、マーシャルプランは米欧軍事同盟と反共封じ込めをもとにしたのに対し、一帯一路は社会経済的なつながりをアジアから欧州に向けて築いて行く非軍事的なコネクティビティーがキーワードだ。開発途上国への経済支援を講じながら、サステナビリティを理念とし、省エネ、環境対策も進めていくだろう」

「そこでセンターは、研究・啓蒙機関としての役割を果たしていきたい。参加企業への法務・経営コンサルの役割も果たしていく。知的ネットワーク拠点を作り、安全保障拠点を築きたい。AIIBにせよ、一帯一路にせよ、参加することは日本の安全保障にもプラスになる。潜在的な中国の軍事的膨張の動きを逆に内側から削いでいくことになる。地域秩序をともに作り上げていくことが、潜在的に台頭する巨大な軍産複合体を切り崩していくことになる。サステナブルな安全保障に向け、日本の戦略拠点としてセンターを発展させていきたい」

「日本政府、国民世論の理解が進んだ」と健氏

次いで、来賓の中国大使館の参事官、倪健氏が登壇し、流暢な日本語で記念の挨拶をした。

 「大使館の政治部にいる私も、一帯一路の最新状況について毎日勉強している。内容が豊富で変化が激しいのが特徴だ。2年前に中国にいた時、一帯一路構想をめぐって世界各国と交流した。当時の日本は一帯一路に対し、全体として政府も民間も大変厳しいものを持っていた。中国の陰謀だという疑惑も出た。だが、日本政府の姿勢が大きく変わった。一定の理解を示しているのは最近の日本の政府、国民全体の世論だ」と、日本国内の一帯一路をめぐる雰囲気が改善してきたことを示唆した。

氏は、昨年5月に初めて北京で開催した一帯一路の国際フォーラムについて触れ、「これは一帯一路を現実の実務段階に切り開いた意義がある。重要な『五通(政策の意思疎通、インフラ設備の連結、貿易・流通の円滑化、資金の調達、国民交流によって心と心が通じること)』の建設に大きな進展があった」と報告した。

倪氏によると、昨年のフォーラムでは279の成果があり、255はすでに完成し、あるいは順調に展開ができており、残り24も計画通りに進んでいる。中国はこれまでに86カ国、国際組織との間で101の協力文書を交わした。このうち2017年度に新たに調印された文書は50余りあり、国連、アジア太平洋経済協力(APEC)、上海協力機構(SCO)など国際社会から相当な理解を得ているという。

倪氏が特に力を入れた報告は、インフラ建設協力が速い速度で進んでいることだ。「インフラ建設は優先的に進められ、アフリカのケニアのモンバサからナイロビまでの鉄道が開通し、運転を始めた。東欧のハンガリーからセルビアまでの鉄道、中国からラオスまでの鉄道、タイの建設も工事が始まった。インドネシアのジャカルタからバンドンまでの鉄道建設も前向きに進展している。スリランカのハンバントタ港も運営を開始した。ギリシャのピレウス港は欧州の重要なトランジットハブに建設するつもりだ。中国とロシアの石油パイプライン・プロジェクトも完成した。中欧間の国際定期貨物列車(中欧班列)は3,600便、累積6,600余の便が運航されている。欧州13カ国の36都市に貨物列車が到着している。将来はスムーズに、かつ効率的に国際チャンネルの建設に力を入れていくと思う」と述べた。

また、「経済貿易と投資協力の成果も著しいものがある」と語った。2017年度、中国と一帯一路沿いの国との貿易額は1.1兆ドルに達し、前年比14.8%の成長だ。こうした国々では75の対外経済貿易協力区域を築き、20万人余の雇用を創出したという。ベラルーシの工業団地には中国企業が多くの投資をしていると例示した。

さらに、倪氏は資金調達の協力に言及し、中国財政部が26カ国と一帯一路の「資金調達ガイドライン」の調印をし、世界銀行など6つの多国間機構と一帯一路建設協力了解の覚書を締結したと、報告した。24カ国との間で1.4兆人民元に及ぶ2国間通貨スワップ協定を締結し、このうち7カ国で人民元決済の手配もした。中国国家開発銀行と中国輸出入銀行の累積ローンは2,000億ドルを越えたという。

また、文化交流も深め、一帯一路に関するクリーン開発国際連盟の推進、60余りの国との文化協力の締結、観光相互交流機構の活動を例示した。多次元・多分野の文化交流、文化統合やイノベーションの推進を進めていく方針という。

倪氏は「この1年間、100余りの国で実務的な進展があり、多くの国の協力を得た。今後の1年間は五通でさらに進展をするだろう。来年は2回目のフォーラムを開催し、一帯一路建設をさらに深く進展させる」と述べた。

最後に日中関係について「先日は日中ハイレベル経済対話が約8年ぶりに開催され、日本側から一帯一路に対して状況に応じて協力する姿勢が表明された。中日間、第三者との協力は大きな潜在力がある。実現できれば、日中だけでなく、地域と世界の成長と経済の活性化に繋がると期待される。一帯一路のこれからの発展をご理解とご協力をお願いする」と結んだ。

「一帯一路日本研究センターを一帯一路版OECDに」と朽木氏

この後、元国連大使でセンター顧問の谷口誠氏は、「アジアインフラ投資銀行(AIIB)について未加盟なのはG7で日米だけだ。アジアでは北朝鮮とブータン、日本のみだ。あまりに米国に配慮し過ぎている。日本はもっと軸足をアジアに移し、存在感を出す好機だ。日本は一帯一路の深淵を理解していないと思うが、AIIBも、一帯一路も中に入って透明性を上げていけばいい」と述べた。

また、日大教授でセンター副代表の朽木昭文氏は、「個人的な希望だが」としながらも、「日中韓サミットでは『日中韓リサーチ基金』の創設を進めていただければ、というのが短期的な願いだ」と提案した。さらに中長期的には、一帯一路日本研究センターを「一帯一路版OECD(経済開発協力機構)」という国際機関に育てる提案をした。その役割としては、①一帯一路参加国の福祉を実現するため、環境対策に配慮した持続的成長のあり方を考察する、②地域統合において経済政策の調整を行う…ことが考えられるという。

さらに、朽木氏は「世界上位500企業の国別ランキング」(2017年版Fortune Global 500から。売上高ベース)に触れ、2004年に米国企業が189社、日本企業が82社、中国企業が15社だったのに対し、2016年には米国134社、日本52社、中国103社という劇的な変化があることを指摘した。その上で、朽木氏は「こうした状況を踏まえて日本や韓国などが一帯一路に参加する経済的意味」として、①一帯一路で進む自由貿易で生まれるイノベーションに日本、韓国などが協力していく、②インフラの連結性のため、建設される道路や鉄道に日本が得意とする環境対策や資金面から協力していく、③一帯一路が狙う産業集積に対し、日本がアジアで展開してきた工業団地をもとに協力していく…という3点を示した。

「日中間に伙伴(フオバン)関係の構築を」と江原氏

第二部は、立命館大学教授でセンター事務局長の周瑋生氏が司会を務め、センターの研究主幹を務める4人が異なる専門分野から学術調査の報告をした。

国際貿易投資研究所(ITI)研究主幹の江原規由氏は、「改革開放の国際化としての一帯一路とその展望」と題して報告した。この中で、江原氏が中国外交を方向づける重要なキーワードとして示したのは、中国語の「伙伴(フオバン)関係」だ。英語ではパートナーシップと訳されるが、中国は独自の意味を込めて、国家間関係の指導原則にしているという。国際的な協定や条約で結ばれる関係でなく、首脳・元首同士の共同声明に基づいている。中国との一定の相互信頼に基づき、重大な問題について基本的に意見を異にしない相互尊重、求同存異の関係であり、多くの国との間で構築している。

江原氏は、日中間では2008年に構築した「戦略的互恵関係」があるが、伙伴関係は結ばれていないだけに、「日中平和友好条約から40周年を迎える今年こそ、日中の『戦略互恵伙伴関係』というような関係構築がされることが重要だ」と述べた。

次いで、ジェトロ・アジア経済研究所の上席主任調査研究員の大西康雄氏は、「一帯一路建設の現状と課題」について報告した。まず、中国の長年の対外経済政策を分析している立場から、一帯一路は東部沿海地域を対象に開放拡大による成長を図ってきた「自由貿易試験区」との「車の両輪」をなす新しい政策であり、西部内陸地域を対象に対外貿易投資拡大を図る「西部大開発バージョン2」である、と位置付けた。

その上で、大西氏は、2017年5月の一帯一路サミットフォーラム後、「構想」は「建設段階」に入ったとの認識を示した。その中では、新しい内容が付け加えられ、①インフラ建設が先行しつつも、FTA締結や制度整備も重視されている、②中国が展開してきた経済協力枠組みを保持しつつ、AIIBなど新しい資金ルートも設立されている、③政府が関わる領域外でも、中国企業による活発なビジネス活動の展開がある…などの特徴が見られるという。

その一方、大西氏は、中国経済の成長によるポジションの大きな変化と撹乱作用に注意を喚起した。過去、中国は東アジアから中間財を輸入して最終製品を欧米に輸出する「三角貿易構造」があったが、資源輸入や開発途上国・先進国への製品輸出が急増し、海外直接投資も急増した結果、国際収支が先進国型になってきている。しかも、鉄鋼製品の大量生産と輸出で鉄鉱石の取引市場や鋼材市況など国際経済を撹乱したり、途上国の工業化を阻害したりするケースが出ている。

これらを踏まえ、大西氏は今後の課題を挙げた。①中国の意図と関係国の意図の食い違いや摩擦が頻発していることに対する調整、②ロシア主導のユーラシア経済連合など既存の多国間枠組みとの関係調整、③中国が経済援助から直接投資の主体に転換することによる、開発途上国の工業化・産業化の支援…の3つだ。

大西氏は、「2019年には次回のサミットフォーラムが開催予定で、それまでに中国国内のシンクタンクや大学が一帯一路実施から5年の総括研究を指示されており、さらに長期的構想にするための提案が出てくるだろう」との展望を示した。

「中欧間の定期貨物列車は2020年に往復5,000本に増える」と李瑞雪氏

法政大学教授の李瑞雪氏は、「一帯一路と中欧班列:中国と欧州間の鉄道貨物定期輸送が何をもたらすか」をテーマに報告した。「中欧班列」(英語名:CHINA RAILWAY Express=CRexpress)とは、中国−欧州間の国際定期貨物列車のことで、シベリア鉄道を利用する旧ユーラシアランドブリッジと新ユーラシアランドブリッジを使い、一帯一路構想が浮上する以前の2011年から走り始めた。2011年は「欧州行き」の往路ばかり17本に過ぎなかったが、2014年から「中国行き」の復路も貨物輸送サービスを始めた。2017年には中国の38都市から61ルートで運行され、欧州と中央アジアの実に往復3,673本に増え、取扱貨物の価値総額は約160億ドルに達した。2020年には往復5,000本に増え、総額200億ドルにも達する見通しという。

李氏は「順風満帆に見えるが、必ずしも中央政府の思い通りに動いていない。ルートが乱立して輸送効率が悪く、政府が補助金を補填している。国鉄は3つのルートに集約しようとしている」と、実情を報告した。だが、長期的には、「内陸部のハンディキャップを解消し、外向型産業の内陸立地を促し、内陸主要都市を“沿海化”して新たな地域統合モデルの模索になる」と大きな可能性を指摘した。

また、シグマ・キャピタルのチーフ・エコノミスト、田代秀敏氏は「一帯一路と金融〜金融は地政学を超えアジアを繋ぐ」と題する報告の中で、「デジタル一帯一路」が形成されつつある、と指摘し、関心を集めた。特にスマートフォンとQRコードを用いた「モバイル決済」は中国で急拡大し、ネギ一本にもQRコードが付いているという。モバイル市場では中国企業が先行し、アリババは東南アジア市場で積極展開しているほか、ケニアのモバイル決済市場も中国の技術が使われているという。

対照的に、治安が良い日本では現金決済が圧倒的だ。田代氏は、「金融は地政学的対立を超えてアジアを繋ぎ、アジアを根底から変えていく。それに出遅れることは、日本の将来を危うくするだろう」と警鐘を鳴らした。

第二部の締めくくりとして司会の周氏は、「一帯一路がどんなものか、認識は人によって異なるが、非排他性、非独占性、非ゼロサム、非暴力、互恵、発展途上国と先進国の協力モデル、といった六つの特徴を持つべきだ」と指摘した。

 

「中国に寄り添い、巨大化の動きを戒める適役は、日本」と西原氏

最後に、元早稲田大学総長でセンター顧問の西原春夫氏が登壇し、閉会の挨拶を次のように述べた。

「アジアの中の古い文明国で、大国である中国を敵視するのでなく、どう付き合うか。日本政府の『自由で開かれたインド太平洋戦略』は価値観外交であり、対立を煽るだけになる。中国は巨龍であり、動くだけで巨大な影響があり、新しい帝国主義になる恐れもある。それを戒め、コントロールするのは、日本が一番、適役だ。日本はかつて大東亜共栄圏を築こうとして失敗した。中国に寄り添い、友人として仲間として正しい方向に持って行くため、嫌なことも言うことが必要だが、日本政府がそれをすることは難しい。一帯一路日本研究センターは民間の団体として、研究会として、その基礎を造る大きな意味がある」

この後、記者会見が行われ、多くの一般参加者もオブザーバーとして聞き入った。(文責:センター国際広報上席委員・竹内幸史)