リベラル派知識人が「一帯一路日本研究センター」設立

投稿者: | 2018年1月26日

WEB RONZA 原稿 竹内幸史執筆 

中国が推進する経済圏構想「一帯一路」に対し、日本はどう関わっていくべきなのか。日本政府は、安倍首相が20176月、「公正な調達」や「財政の健全性」を前提に一定の協力をする構えを示し、二階俊博・自民党幹事長も前向きな見解を語っている。習近平国家主席が最初に一帯一路構想を示してから5年目に入り、様々な動きが出てきた。

リベラル派知識人が「一帯一路日本研究センター」設立

中国の「一帯一路」構想に対し、動きが鈍かった日本国内にも、ようやく積極関与の動きが出てきた。リベラル派知識人による「一帯一路日本研究センター」の設立だ。その狙いは何だろうか。

設立の中心になったのは、筑波大学名誉教授の進藤榮一氏。もともと米国外交の研究が専門だが、中国を含めたアジア共同体構築の可能性を探求し続け、現在は「国際アジア共同体学会」の会長や、アジアの人材育成と研究交流を促進する「アジア連合大学院(GAIA)機構」の理事長を務める。

進藤氏は現在の世界情勢について、「パックスアメリカーナが終焉を迎え、新たに展開するアジアの世紀において一帯一路構想が主軸になり得る」と読み、それに対する日本の対応が遅いことを憂慮してきた。そこで、学術レベルで同構想の動向分析を進め、日本の関わり方を提言するため、研究センターを設立し、自ら代表に就いた。

20171130日に東京で発足した研究センターの最高顧問には、中国に多くの人脈を持つ福田康夫・元首相が就任し、谷口誠・元国連大使、西原春夫・元早大総長らが顧問に就いた。副代表には河合正弘・東大教授、朽木昭文・日大教授、郭洋春・立教大学総長、朱建栄・東洋学園大教授ら、日本在住の韓国人・中国人学者も名を連ねている。事務局長に周瑋生・立命館大大学教授が就任、事務局はGAIA機構に置く。

「警戒的だった日本も変化」

センター発足を宣言したのは、「日中国交正常化45周年記念国際シンポジウム」でのことだ。出席した程永華・駐日中国大使は、「一帯一路は日中協力の新たなプラットフォームにすべきだ。日本は最初、警戒的だったが、最近はプラスの目で見てくれる。両国の企業が組んでベトナムや中東で太陽光発電などの建設協力に動いている例もある」と述べ、日本の前向き姿勢への転換を評価した。福田元首相も「日中が互恵協力を進める時が来た」とエールを送った。

研究センター設立の一番の背景には、一帯一路構想の広がる経済圏が日本の未来にとって巨大な潜在性を有している、との判断がある。習主席は2017年5月に開いた「一帯一路北京フォーラム」で自由貿易協定(FTA)をテコに経済圏を建設する考えを示した。環太平洋パートナーシップ(TPP)が米国の離脱で弱体化しているのに対し、中国が求心力を強めて自由貿易秩序の形成を狙っている。

国際貿易投資研究所の研究主幹、江原規由氏によると、中国は2017年7月現在、東南アジア諸国連合(ASEAN)など15の国・地域、機関とFTAを締結済みだ。北京フォーラムには65カ国・地域が参加し、そのうち30カ国以上と経済貿易協力協定を結び、FTA協議を進めている。トップダウンの国ならではのダイナミズムがある。

さらに進藤氏によると、以下の特質も評価できるという。「一帯一路構想は外交形態において、古典的な同盟関係でなく、21世紀型の経済社会的ウィンウィンのパートナーシップ関係を基軸にしているところが新しい。政策理念は、持続可能な地球環境との多元共生と、途上国問題やテロ、貧困の解決を目指した包摂性が主軸になっている」

このパートナーシップ関係は、中国語で「伙伴(フオバン)」と呼ばれる。中国と重大問題について意見を異にしない一定の信頼関係を指す。習主席の首脳外交によって、すでに90カ国以上と関係を構築している。欧米的な条約や協定で縛るのでなく、緩やかな「アジア的関係」を基盤にしており、中国はこのネットワークを「朋友圏」「世界の公共財」と呼ぶ。日本もこの経済圏に飛び込んでいくことで21世紀の活路を見出すべきだ、というのが、進藤氏らの考えだ。

一帯一路の事業は多岐にわたり、研究センターも「開発投資インフラ」「経済通商」「環境エネルギー」「ガバナンス」など6つの研究部会を設ける。「政府機関や企業、市民社会と連携しながら、『トラック2』の外交機関として政策提言していく」という。 

解けない中国への猜疑心

自民党幹部では、二階俊博幹事長も201712月下旬に訪問したアモイで一帯一路構想に協力姿勢を示した。「お互いの障害を取り除き、円滑にビジネスができるようになれば、相乗効果によって新しいイノベーションが生まれ、日中双方の利益は増大し、共に発展できると確信している」

12月下旬には日中の政府と民間企業が環境分野での協力を話し合う「日中省エネルギー・環境総合フォーラム」が東京で開かれた。大気汚染や下水処理対策など23件の協力で合意文書が交わされた。一帯一路の協力を進める場合、日中がつば競り合いをしている交通インフラなどの建設より、こうした環境分野を優先していけばよいだろう。

だが、日中協力が順調に進んで行くのか、楽観はできない。依然として、中国の国家戦略が色濃く反映した同構想に対する日本の懸念や猜疑心は解けていない。

一帯一路北京フォーラムでは、パキスタンで中国が進める経済回廊の建設にインドとの領土紛争地が含まれたため、インドが参加をボイコットした。宮本雄二・元駐中国大使は「日中両国が抽象的に平和、発展と言っている時期は終わり、やっと共通の土俵に立って協力する段階に来た」と評価するが、印パ関係への中国の配慮が欠けていることを厳しく批判している。

多国間の調整機関が必要

一帯一路に対する問題意識は、日本の識者に共通している。研究センター副代表の河合正弘氏も「中国が南シナ海での航行の自由を損なったり、インド包囲網の構築をしたりといった自国本位の政治的・地政学的な目的で一帯一路を用いる可能性はある」と指摘している。さらに、河合氏は「クロスボーダー型のインフラ事業に関し、国際的・多国間的な総合調整機関が存在しない」、「結果を評価するための枠組み・メカニズムが存在しない」と述べ、一帯一路推進体制の改善課題を示している。

中国主導で設立されたアジアインフラ投資銀行(AIIB)は多国間で資金を拠出する機関であり、組織内のメカニズムによって他の国際金融機関との協調、ガバナンスと融資の高い基準が求められている。

これに対し、一国の政府が進める一帯一路構想のガバナンスや透明性向上は、ひとえに中国の判断に委ねられている。だが、中国が真に「朋友圏」と「世界の公共財」の構築を目指すなら、日本の批判に耳を傾けるべきだろう。研究センターには、その苦言者としての役割を期待したい。