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コラム:AIIB年次総会と一帯一路 中川十郎

BIS論壇No.231 2017年6月17日 日本ビジネスインテリジェンス協会会長 中川十郎 中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)年次総会が6月16~17日、韓国の済州島で開催された。AIIBは加盟国拡大に力を注ぎ、16日にアルゼンチン、トンガ、マダガスカル3カ国の参加を認め、加盟国・地域は80となった。今年創設50年目を迎えるアジア開発銀行(ADB)の67カ国・地域をさらに引き離した。年末までには参加国は85から90か国・地域に達すると予測されている。 今回の会議では先にトランプ政権が脱退を表明した温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」を推進するために地球温暖化対策に結びつく投融資にAIIB参加の80か国・地域がEU、中國を中心に注力していく方針を打ち出したことだ。AIIBは総会にあわせて、3件、3億2400万ドルの新規融資案件を承認した。1件は印度のインフラ基金への出資。2件は世界銀行などとの協調融資だ。これまでの融資は16件、約25億ドル。このうち12件、19億ドルが世界銀行、アジア開発銀行、欧州復興開発銀行などとの協調融資で、慎重な運営を行っている。AIIBはアジアから欧州に及ぶ経済圏作りを目指す「シルクロード経済圏構想(一帯一路)」を資金面で支える投融資銀行としての役割を果たすものとみられる。「AIIB」と「一帯一路」構想は車の両輪の働きをするものだ。 AIIBはこのように本格的な国際機関の体裁を整えた。次回は印度で2018年に開催される。 国際評論家・春名幹男氏によれば、米外交問題評議会研究員等が5月12日のフォーリン・ポリシー電子版で「一帯一路」について「アジアにおける米国のリーダーシップの危機」と警告し、このままだと「米国はアジアの主導権を失う」と危機感を示しているという。 安倍政権が一帯一路に対抗すべくインドと組んでアフリカを中心にインフラプロジェクトでの連携作戦をしている現状に触れて、インドのSunil Chacko教授は5月20日のSunday Gardian Liveでこの構想は効果的でないと批判的な論調を掲げている。 安倍政権の麻生財務相は「AIIBに融資条件を審査する常設の理事会がないことから、融資能力、審査能力があるのか」と加盟に否定的な考えを示しているという。(朝日6月17日)。一方、加計疑惑の「怪文書」発言で批判が高まっている菅官房長官は「AIIBへの日本の参加時期について考えていない。しっかりと注視しながら(判断する)ということだ。重視する条件については、公正なガバナンスの確立や加盟国の債務の持続可能性の確保などを挙げた」という(日経6月17日)。 G7では米国とそれに追随する日本の2カ国のみが、上記のような理由をつけて参加を逡巡している。このような自国中心の対応では日本は「AIIBと一帯一路」のバスに乗り遅れ、悔いを千載に残すことになるだろう。 東アジア共同体研究所理事長の鳩山由紀夫元首相はAIIBの国際諮問委員会顧問として活躍されており、今回の済州島でのAIIB年次総会に参加された。6月24日の国際アジア共同体学会(於立教大学)春季大会で「ユーラシア新世紀への提言~AIIB総会から帰って」と題して講演される。BIS会員各位の参加を希望したい。 日本ビジネスインテリジェンス協会HPはこちら

コラム:一帯一路とAIIB 中川十郎

BIS論壇No.227 2017年6月5日 日本ビジネスインテリジェンス協会会長 中川十郎 5月の北京での「一帯一路」首脳会議に29カ国の首脳、70の関係国が参加して以来、「一帯一路」への内外の関心が高まっている。6月8日カザフスタンで開催の上海協力機構(SCO)首脳会議でも話題になると思われる。さきに本論壇で、英国、米国の地政学者や研究者のユーラシア重視の必要性をうたった学説を紹介したが、地政学の観点からも『一帯一路』戦略への日本の参入は国際通商戦略上も必須であると思われる。 名著『資本主義の終焉と歴史の危機』に続き近刊の力作『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』の著者・水野和夫法政大学教授は同書で、海を制した18~19世紀のオランダ、英国、20世紀の米国に代り21世紀は陸を制するEU、中国、インド、ロシアが発展すると予測しておられる。まさしく「ユーラシアを制する者は世界を制する」時代の到来だ。 中国の「一帯一路」政策に対抗し、日本はインドーアフリカ会議を主催したインドと組みアフリカへの進出を画策しているという。この策はかって日本が中国主導の上海協力機構(SCO)に対抗し、Arc of Liberty and Prosperity(自由と繁栄の弧)政策をかかげて中央アジアを包囲しようとしたことと軌を一にしている。日本の隣に米国に匹敵するかそれを凌駕する巨大市場が誕生するのは自明だ。これらの動きに対抗するよりも、この趨勢に対応し、「一帯一路」や「AIIB」に協力する戦略を打ち立てることこそが、21世紀を見据えた日本の通商戦略であるべきだ。日本では「AIIB」「一帯一路」は中国の過剰製品のはけ口を狙う中国の戦略だとの批判的言動が主流だ。しかし一帯一路、AIIBともユーラシアの陸と海の交通網を整備し、世界人口の60%、GDP30%、貿易30%を超える沿線64か国のインフラ投資を支援。アジアからユーロッパへの巨大物流と貿易を拡大し、経済発展をめざし、21世紀のシルクロードを再構築するという壮大なプロジェクトだ。 5月17日、ソフト・バンク孫社長が主導するアジア国際スーパーグリッド会議に参加した。この構想はモンゴルで風力、太陽光で発電した電力を国際送電線網を活用し、近隣のアジア諸国、さらに海底電線で日本にまで送電しようという壮大なエネルギー構想で、一帯一路計画に連動して、日本がリーダーシップをとれる国際プロジェクトだ。 5月31日に国連大学で行われたトルコ会議に参加のトルコ投資誘致関係者もトルコは地の利を生かし、アジア~ヨーロッパを結ぶ一帯一路に積極的に参加したいと強調していたのが印象的だった。さらに6月2日、JETROで開催のコーカサスのジョージア共和国(旧グルジア)の投資説明会で、同国ズラブ外務大臣に一帯一路とAIIBに関するジョージアの対応を質問したところ、昔からのシルクロードの要衝であるジョージアは一帯一路に積極的に関与し、協力したいと並々ならぬ熱意を表明した。関係国のこれらの言動から判断し、一帯一路は沿線各国の21世紀の大プロジェクトとみなされていることがわかる。 かかる趨勢に反し、一帯一路、AIIBに懐疑的な見方をし、参加を逡巡している日本はユーラシアの大きな商圏を取り逃がすことになるのではないかと杞憂に耐えない。 安倍政権の中国敵視政策は将来の日本にとって大きな損失を与えることになるだろう。 日本ビジネスインテリジェンス協会HPはこちら